浪人失格

恥の多い生涯を送ってきました。徒然なるままに日々の考えを記録していきたいと思います。

金閣寺を燃やす本

死ぬまでに読もうと思いつつ、逆に大切に読まずにいたこの本をついに読んでしまいました。三島由紀夫の「金閣寺」です。あらすじを読みましょうか。

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1950/7/2、「国宝・金閣寺焼失。放火犯人は寺の青年僧」という衝撃のニュースが世人の耳目を驚かせた。この事件の陰に潜められた若い学僧の悩みーーハンディを背負った宿命の子の、生への消し難い呪いと、それゆえに金閣の美の魔力に魂を奪われ、ついには幻想と心中するにいたった悲劇......。31歳の鬼才三島が全青春の決算として告白体の名文に綴った不朽の金字塔。
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へー、そもそも金閣寺って一度燃えてたのか!ってところから驚く人もいるでしょうが、古くからある神社仏閣、城というものは、割と何度か焼失していることが多いです。

普通に考えて、金閣寺を焼こうなんて思いいたらない。その行為に至るまでの動機というものをどう説明するのかが気になって仕方ありませんでした。あ、ちなみに時代背景は、戦時中〜戦後です。

まず読んでみて思ったのは、登場人物全員ガイジばっかだなぁということです。

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私(溝口)...ガイジ。主人公。生まれつき吃りで周りからバカにされる。寺の息子だが、父親の死をきっかけに、父の知り合いのつてで金閣寺に預けられる。
授業サボリのプロ。成績最下位。授業料を風俗へ使い込む。妊婦の腹を踏んで流産させる。金閣寺の放火。など余罪多数。

母...ガイジ。昔、一つの蚊帳の下で父親、主人公と宿泊している信徒と地元の寺で寝泊りしたときに、堂々と信徒と不倫するなかなかの人物。そのせいからか主人公からは嫌われている。息子を金閣寺の後継ぎにさせたがっていて、「母を醜くしているのは、...それは希望だった。湿った淡紅色の、たえずかゆみを与える、この世の何ものにも負けない、汚れた皮膚に巣食っている頑固な皮癬のような希望、不治の希望であった。」などと主人公に心の中で煽られる。

父...ガイジ。ではないけど病弱ですぐ死ぬマン。昔から「金閣寺が最も美しい」と語り、主人公をこじらせた。

有為子...ガイジ。主人公がガチ恋した女だが、主人公をdisったために主人公に呪われる。その成果かは知らないけど、脱走兵と駆け落ちして、何だかんだでその脱走兵に撃ち殺される。かなしいなぁ。その後主人公がいろんな女性と会ったり、致そうとしたときに主人公の脳内に登場する。

老師...ガイジ。金閣寺の主。主人公の父とは古くからの友達。エロ坊主で芸者とよく遊んでおり、度々主人公に目撃されて、時おり行為を想像される。しかし子供はいない。普通に寡黙ないい人で、主人公が何をやっても叱るというよりは何もせず黙っている。その分主人公には辛いようで、ガイジ主人公は老師を怒らせようと必死になってさらに悪さをする。

鶴川...聖人。分け隔てなく人に接する。主人公を陰とすると彼は陽。分かり合えないようで逆に分かりあっていて、主人公とは親友。東京の寺の息子で、金閣寺に共に預けられていた。でもトラックに轢かれて死んでしまって、主人公は狂う(元から狂っているといえば、そう)。
後後わかることだが、トラックにひかれたという死因は嘘で、女性関係に悩んだ結果の自殺。

柏木...The ガイジ。いままで見た小説の中で一番ガイジ。内翻足の身体障害者。主人公との初対面シーンは激アツ。
まず吃りの主人公に「もっと吃れよ」と煽る。そして唐突に童貞認定をしてきて、自分の初体験を語り始める。めちゃくちゃ若くてかわいい女に好かれたことを自慢し、お!なかなかやるやんと思わせつつ、なぜかその女に対しては男性が不能になったからデキなかったと抜かす。結局60代だかの老婆に、自分の内翻足を拝ませて念仏みたいなのをいいながら致すのが初体験らしい。そうして美はくだらないものだと語る。本当によくわからん。
ちなみに自分の内翻足を生かして女の同情をかって致しまくるなかなかの手腕をもっていて、なおかつとても賢いので、主人公とはいろんな論争を繰り広げる。
普通に性格はめちゃくちゃ悪い。

金閣寺...ガイジ。燃やされる。かわいそう。
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主人公が金閣寺を燃やした理由については、案外簡単です。

主人公は幼少期父の話を聞いて金閣寺を美の象徴だと思いこみますが、はじめて金閣寺を見た時に、思ったほどではなくて落ち込みます。しかし、戦火が広がって、空襲で金閣寺が燃えるかもしれないと思った瞬間から、そのツンとすましたような雄大さや永遠さというものが脅かされて、とても美しいと思えるようになります。といっても焼失してしまうわけもなく、何事もなく終戦してしまって、いろいろやらかして寺での立場が無くなった自分こそがこの金閣寺を燃やそうと思い立つのです。残酷な気持ちが湧いてきた時、なぜ老師を殺すのではなく、金閣寺を燃やしたがるのかについては次を読めば分かるでしょう。

「人間は自然のもろもろの属性の一部を受け持ち、かけがえのきく方法でそれを伝播し、繁殖するにすぎなかった。」
「人間の滅びやすい姿から、却って永生の幻が浮かび、金閣の不壊の美しさから、却って滅びの可能性が漂ってきた。人間のようにモータルなものは根絶することができないのだ。そして金閣のように不滅なものは消滅させることができるのだ。」
金閣を焼けば、その教育的効果は著しいものがあるだろう。そのおかげで人は、類推による不滅が何の意味も持たないことを学ぶからだ。ただ単に持続してきた五百五十年の間鏡湖池畔に立ち続けてきたということが、何の保証にもならぬ事を学ぶからだ。われわれの生存がその上に乗っかっている自明の前提が、明日にも崩れるという不安を学ぶからだ。」

つまり、主人公に言わせれば、人を殺してもなんの解決にもならないのです、別の人がその意思を継いでしまったら、結果的にその人を殺した意味もないのです、人間の個人というものは簡単に消失させられますが、人間そのものを滅ぼすのは難しい。一方で永遠に見える金閣寺は滅することが出来る。永遠に思えた金閣寺が無くなるということによって、世の中の人は観念をひっくり返されるのではないか、そして自分はそれをしなければならないという使命感から放火したのです。

ちなみに放火するといっても、決めてから実行に移すまではかなりの間があいています。あともう少しで死にそうな患者に対して優しくなるのとちょうど同様に、寺の仲間に優しくなるところも面白いし、老師から貰った授業料で風俗に通うところも面白い。こういう行動ってもしかしたら「明日地球が終わるとしたら?」みたいなときの行動に近いのかも知れませんね。


さて、他にも柏木と主人公の美についての論争などもなかなか良かったのですが、それは書くとしたら今度にしておいて、今回何が一番言いたいのかというと

「自分ルールは結構だけど周りに迷惑かけるやつはガイジ」

ということです。頭のおかしい行動をする人にも、彼なりの理論があって、それを責めるつもりはありませんが、周りに被害を与えてはいけません。
例えば「革命をおこすぞ!」みたいな使命感にかられた人間というものがいるのは結構なんですけど、関わるのは面倒なんですね。無駄に賢い人間とかだと尚更。

さて、作者の三島由紀夫の死に方って知ってますか?自衛隊駐屯地でクーデターを促して割腹自殺ですよ。まさに三島由紀夫自身が溝口(主人公)なのではないかと思ってしまいます。